コラム

債権者保護手続きの個別催告の範囲

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減資など債権者保護手続きを行う場面はいくつかあります。

債権者保護手続きは、主に2つの内容で成り立っています。

1)官報への公告
2)知れている債権者への個別の催告(通知)

ただし、2)の知れている債権者への個別催告は、定款の公告方法が日刊新聞または電子公告になっている場合で、これらの公告方法によって債権者が異議を述べることができる旨を公告した場合には不要となります。日刊新聞やインターネットは官報に比べて見られる人の範囲が広いためと思われます。

債権者保護手続きを行う際の「知れている債権者」の範囲について考えてみます。「知れている債権者」ということは、会社にとって債権を持っている人です。

この場合、まず会社の貸借対照表や試算表上の買掛金や未払金などの勘定科目で取引先として計上されている相手方が当てはまります。しかし、未計上の場合、つまり簿外負債があったとしても会社が認識している以上は、その相手先も「知れている債権者」に該当します。そのため、たとえ貸借対照表や試算表上は未計上であっても、会社として債権者として把握していれば個別催告の対象となります。

個別催告の相手方

債権者保護手続きの個別催告については、特に範囲や金額の指定はありません。会社法上、個別催告の手続きの対象となる金額が限定されていないため、理屈から言えば、例えば債権額が100円だろうと個別催告の対象となります。

個別催告が漏れてしまったら

それでは、もしこのような少額の債権者への個別催告を怠った、または失念した状態で減資合併組織変更などの手続きを進めると、これらの手続きは即座に無効になるのかといえばそうではありません。結局、個別催告の意味は、異議がある債権者のために弁済を受ける機会を与えるためです。合併、減資などの行為が債権者を害することがない場合を除いて異議を述べた債権者には弁済しなければなりません。そのため、個別催告を行わなかった場合で、債権者が異議を述べた場合も、弁済するか、債権者を害することがないことを立証(立証は会社側に義務があります。)すればよいでしょう。個別催告を怠ったら、手続きが即無効という条文がなく、また法的な安定性を考えると、少額の債権者を保護しすぎるのも不均衡です。

とはいえ、条文上は全債権者に通知することが義務付けられています。そのため、すべての債権者に対して通知を送るか、資金繰りに影響がなければ先に弁済してしまうというのも一つの手です。少額の債権者の視点からしても、いきなり催告書のようなものが送られてくると訳が分からず重大なことが起こる、と混乱して問い合わせてくる事業者がいるのも事実です。それであれば、実務的な観点からも個別催告を送るよりも、弁済して個別催告の対象から外したほうがよいでしょう。

金融機関からの借入金や、毎月の自動引き落としなどのケースでは対応できませんが、少なくとも振り込みであれば上記のような対応が可能です。金融機関は個別催告にも慣れていますし、自動引き落としの事業者もそれなりの規模のところが多く個別催告が来てもよほど代金を滞納していない限りは気にも留めないでしょう。

ちなみに、個別催告の対象となるのは通知日における債権者です。将来的な債権者は含まれないので、例えば具体的な金銭債権が生じるのが3か月後といった人がいても、その人は個別催告の対象にはなりません。将来的な債権者まで個別催告の対象に含めると、いつまでたっても催告期間が満了せずに手続きができないということになってしまいます。

 

 

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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