コラム

非公開会社の決算公告

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会社法では、決算公告について以下のように定められています。

第440条
  1. 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
  2. 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第1項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。

大会社以外では、広告は貸借対照表のみ開示すればOKということになっています。さらに官報や日刊新聞を公告方法としている場合(第939条第1項第一号又は第二号)には、貸借対照表の要旨だけ公告すればOKということになっています。

官報や日刊新聞では、1行でも増えると掲載費用が数万円変わります。そのため、中業企業にとって広告費用の負担を抑えることができるように貸借対照表の要旨だけ公告すればよいということになっています。

貸借対照表の要旨というのは、以下のような内容となります。

金額(百万円)
資産の部 流動資産 100
固定資産 100
合計 200
負債及び
純資産の部
流動負債 50
固定負債 50
株主資本 100
  資本金 50
  資本剰余金 40
   資本準備金 40
  利益剰余金 10
  利益準備金 0
  その他利益剰余金 10
    (うち当期純利益) 5
合計 200

実際に中小企業は決算公告している?

決算公告は、これから会社と取引しようとする企業のための制度です。また、株主や債権者は計算書類の閲覧が会社法上認められているとはいえ、実際に運用されている事例は少なく、株主や債権者にとっても公告には一定の意味を持ち得ます。しかし、実際に上記の内容の公告を見たとしても要旨だけではほぼ会計的な情報は何も入手できていないのと同じです。さらに、官報や日刊新聞への公告では、そもそも公告を捜すことすら困難です。

このように実効性に乏しい中小企業の決算公告ですが、実際には決算公告を行っている中小企業はごくわずかです。会社法上は義務付けられている決算公告ですが、コストがかかる割にはその内容が乏しく決算書を公告したからといって取引先やこれから取引しようとする相手が助かるといったこともありません。(取引開始にあたって中小企業の決算公告を参考にする会社はないでしょう。それなら帝国データバンクなどを活用するはずです。)

決算公告の義務は2006年の会社法施行前の商法時代からありましたが、当時から遵守されているとはいいがたい状況でした。会社法施行時に決算公告義務については廃止も議論されたようですが、そのまま会社法でも引き継がれた形です。

いまではWEBでの決算公告を採用する企業も増えてきました。WEB公告なら官報や日刊新聞に比べればコストは低いとはいえ、それでも数万円程度のコストがかかります。結局は、減資のように決算書の公告を行っていることが前提になる手続きを行う際にセットで決算公告を行うといったことが多いのが実情です。

ちなみに、合同会社などの持分会社や特例有限会社については公告義務は課されていません。持分会社は閉鎖的な会社であり、決算公告を行うことになじみませんし、特例有限会社は旧商法で決算公告の義務が免除されていたためそれを引き継いでいます。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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