コラム

租税条約の条文の構成(OECDモデル)

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海外在住の方の会社設立後の税務顧問や、グローバルに展開する企業様のサポートをするうえで欠かせないのが租税条約に関する実務です。

租税条約とは、二国間または多国間で締結される国際的な税金の扱いに関する取り決めで、主に国際取引や投資において発生する「二重課税」の回避や「脱税防止」を目的としています。二重課税とは、同一の所得や資産に対して複数の国が課税権を持つ結果、納税者が二重に税負担を負う状況を指します。租税条約は、このような状況を防ぐため、各国間で課税権を明確に分配し、税率の上限を設定するなどのルールを定めます。

具体的には、不動産所得、事業所得、配当、利子、使用料、譲渡所得などについてどの国が課税権を持つのかということを調整しています。多くの租税条約は「OECDモデル租税条約」をベースに作成されており、このモデルに必要に応じて変更を加えるスタイルが採られています。(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機))

OECDモデル租税条約の主な構成

OECDモデル租税条約の条文構成は以下のようになっています。

  1. 前文
  2. 対象となる税金の種類(Article 2)
  3. 居住者の定義(Article 4)
  4. 恒久的施設(PE)の定義(Article 5)
  5. 個別の所得項目に関する規定(Article 6~21)
  6. 二重課税の排除(Article 23A, 23B)
  7. 相互協議手続(Article 25)
  8. 情報交換(Article 26)
  9. 条約の適用範囲と制限(Article 28~30)

さらに、個別の所得項目については以下のように条文が構成されています。

条文番号 条文名 主な内容
Article 6 不動産所得 不動産の所在国が課税権を有する。
Article 7 事業所得 恒久的施設(PE)が所在する国が課税権を持つ。PEがない場合は居住地国で課税。
Article 8 国際輸送(船舶・航空機の運用による所得) 船舶や航空機の運用所得は経営が行われている国で課税。
Article 9 関連者間取引(移転価格) 関連者間取引で独立価格が適用されない場合の課税所得調整を規定。
Article 10 配当所得 配当支払元の国で課税率に上限を設定。居住国でも課税される。
Article 11 利子所得 利子支払元の国で課税率に上限を設定。居住国でも課税される。
Article 12 使用料所得 使用料支払元の国で課税率に上限を設定。技術的サービス料を含む場合もある。
Article 13 譲渡所得 不動産の所在国が課税権を優先。株式や動産の譲渡についても規定。
Article 14 独立個人業務 医師、弁護士など独立職業の所得は居住地国で課税。ただし事業拠点がある場合はその国でも課税。
Article 15 従業員所得(給与所得) 労働が行われた国で課税。ただし短期滞在者の所得は居住国で課税される場合もある。
Article 16 役員報酬 役員を務める会社の所在国で課税。
Article 17 芸能人およびスポーツ選手の所得 活動を行った国で課税。第三者に支払われる場合も対象。
Article 18 年金および社会保障 年金や社会保障給付は通常居住国で課税。
Article 19 公務に基づく給与および年金 公務員の給与や年金は支払元の国で課税。
Article 20 学生および研修生 学生・研修生の特定所得に対する課税免除を規定。
Article 21 その他の所得 第6条~20条に規定されない所得は居住国で課税される。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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