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名義株とは?会社設立との関係は?

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名義株とは

名義株とは、一般的に株式の実質的な所有者が別の人や法人名義で株式を保有する形態をいいます。名義株は、特に中小企業や非公開企業において見られることが多く、家族や親族間での株式の保有、あるいは信頼できる第三者に名義を置くことが一般的です。

たとえば、AさんがC社の出資者だけど、諸事情によりBさんが出資したことにしてBさん名義で株式を管理するということです。ただし、実質はAさんが出資しているわけなので実体的な株主はBさんではなくAさんであり、AさんにとってC社の株式は名義株ということになります。

名義株自体は違法というわけではありませんが、状況によっては金融機関等への誤情報の伝達などの可能性があるため、扱いには注意が必要です。

名義株が発生する原因

名義株は、株式名簿上に記載された名義人と、実際に株式を保有している人が異なるため、名義人が株主として認識されます。会社としても実体的な株主が誰かを考慮する必要はありません。

(株式の譲渡の対抗要件)
会社法 第130条 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

なぜ名義株という状態が存在するのかといえば、考えられる理由としては以下のようなものが一般的には言われます。

  1. 税務上の理由
    名義株が利用される大きな理由の一つに、税務上のメリットが考えられます。例えば、名義株を利用して株式を事前に分散させることも行われます。
  2. 経営権の保護
    企業の経営者が、株式の分散によって経営権を保護するために名義株を活用することがあります。名目上株式を分散させておけば、特定の者が他社に譲渡したとしても他の株主の議決権をコントロールできれば経営権を守ることができます。
  3. プライバシーの保護
    実際の所有者が自身の株式保有を公にしたくない場合にも名義株が使われます。例えば、有名な個人投資家や企業家が名義株を利用することで、自身の投資活動や資産状況を隠すことができます。

会社設立時の名義株

上記のように名義株を使用する場面というのが考えられますが、特に会社設立時において名義株が用いられる場面があります。それが会社名義での口座開設や資金調達のためです。金融機関の口座開設においては、「実質的支配者」という考えが重要になります。実質的支配者とはその名の通り、議決権などを通して会社を実質的に支配している人です。例えば株主がAさん100%で代表取締役がBさんという場合、実質的支配者はAさんです。

会社名義の口座開設では、BさんだけではなくAさんのバックグラウンドも審査対象となります。また、実質的支配者Aさんが外国籍で海外在住といったケースではBさんが日本在住であっても会社名義の口座開設に支障が出るケースがあります。

また、Aさんが別の会社を経営していて、そちらで金融機関から借り入れがあるという場合には、その会社で借り入れをしたい場合に実質的支配者であるAさんの別会社の借入も考慮されて借入可能額が算定されることがあります。

上記のようなケースでは実体的な株主がAさんであったとしても、表面上Aさんが株主であると不都合が生じるため、Bさんを名義人として扱うということが行われます。ただし、このケースは会社ではなく金融機関に対して誤った情報を与えることになります。株式会社にとっては名義株であることは気にせずに株主名簿に従って扱えばよいだけですが、金融機関では審査に影響することなので、名義株については慎重に検討する必要があります。

名義株による問題点

名義株にはいくつかのトラブルが起こる可能性があります。

例えば、名義人と実質的所有者との間で、株式の所有権や配当の受け取りに関する争いが生じることがあります。特に、信頼関係が崩れた場合には、名義人が株式を不当に取得したり、実質的所有者が名義人から株式を取り戻すことが難しくなることがあります。そのため、名義株を利用する場合には、家族など特に信頼が置ける者を名義人にすることが一般的です。

さらに、会社法上では、株主としての権利行使は名義人が行うため、名義株を通じて実質的所有者が直接的に会社経営に関与することが制限される場合もあります。このため、名義株は基本的には所有と経営が実質的に分離していない家族経営の株式会社の社長などが利用することが多い制度と言えます。

名義株の管理

名義株のスキームを使う場合には、実質的な株主と名義人との間で株式の実質的所有者が誰であるかを文書で明確にしておくことが重要です。この合意は、万が一のトラブルを防止するための証拠となり得ます。また、株式の譲渡や配当の受け取りについても、具体的な取り決めを行うことが望ましいです。

もちろんこうした当事者間の合意について株式会社は考慮する必要はないので、配当は名義人に支払えばよいですし、議決権の行使についても名義人にだけ認めれば問題ありません。また、名義株にする理由がなくなれば、速やかに株式会社に対して譲渡の承認を受けて株主名簿の書き換えを行ってもらうのが望ましいです。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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