コラム

赤字法人を合併した場合の欠損金の引継ぎは可能?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

青色申告をしている法人は欠損金(赤字)を10年にわたって繰り越すことが可能です。それでは、欠損金を繰り越している法人を合併した場合、存続法人(または新設法人)は消滅する法人が繰り越していた赤字を引き継ぐことはできるのでしょうか?

この点については、もし無制限に欠損金の引継ぎを認めると、大きく黒字を出している法人が赤字体質で欠損金を繰り越している法人を合併することで、欠損金を引継ぐことによる恣意的な法人税の削減が可能となってしまいます。

法人の合併自体は、多少のコストや債権者保護手続きなどによる時間はかかりますが、手続き自体は登記などプロセスを踏んでいけば可能です。さらに赤字の法人の合併などは非常に恣意的に行われるケースが多いので、大きな会社同士で合併する際に行われるようなデューデリジェンスといったプロセスは行われません。(債務状況の確認程度です。)

こうしたことから、基本的には法人を合併することによって欠損金を引き継いで税金を減らすといったことはできないことになっています。

ただし、例外的に「適格合併」に該当する場合に消滅会社の欠損金を存続法人が引き継ぐことが可能となっています。

適格合併として認められる要件としては以下のものが挙げられます。

要件 内容
1. 事業継続要件 被合併法人の事業を合併後も一定期間継続すること
2. 株式交付要件 被合併法人の株主に対して存続法人または新設法人の株式を原則として全額交付されること(無対価合併は除く)。
3. 支配関係要件 – 完全支配関係:存続法人が被合併法人を100%支配していたこと

完全支配関係がない場合は以下のいずれかの要件を満たすこと

同等規模要件:合併法人と被合併法人の売上高や従業員数、資本金を比較した際に、その差が5倍を超えないこと
双方経営参画要件:合併において「合併法人の特定役員のうち1名以上」と「被合併法人の特定役員のうち1名以上」が双方に、合併法人の特定役員になると見込まれていること

さらに、完全支配関係がない場合は被合併法人と合併法人の各事業が相互に関連していることを求める事業関連性も必要

4. 経済的合理性要件 合併が欠損金の繰越など税金の削減を目的としたものではなく、事業継続や成長など経済的な合理性があることが必要。

実際に適格合併に該当するかどうかはケースごとに判断していくことになりますが、適格合併となるには上記の通り厳格な要件が定められています。

少なくとも、知り合いなどが経営していた実質休眠状態の赤字法人を合併して欠損金を引き継ぐといったことは経済合理性の観点からはできないということです。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

関連記事

新着コラム

  1. 海外在住の方の会社設立後の税務顧問や、グローバルに展開する企業様のサポートをするうえで欠かせないのが...
  2. いつも使用している金融機関の口座について、金融機関側から口座の入出金をストップ(凍結)する旨の連絡が...
  3. 役員の給与には、主に月給に該当する定期同額給与と、賞与に該当する事前確定届出給与という2つが存在しま...
  4. 一般社団法人には、いわゆる営利型と非営利型という形があります。
  5. 租税条約は、国際的な所得や財産に関する二重課税を防止したり、租税回避を防ぐために締結される国家間の協...
ダウンロードはこちら