コラム

税理士が行ってもよい社労士業務とは?

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多くの中小企業が関わる士業といえば、税理士がトップ、その次が社会保険労務士だと思います。

それぞれ税理士は税金や経理関係、社会保険労務士は従業員がいる場合の雇用関係などを主に扱います。そしてそれぞれの士業の業務領域は法律で厳格に定められています。どれだけスキルがあったとしても、社会保険労務士が確定申告を代行したり、税理士が雇用関係の届け出を役所に行ったりすることは法律上できません。

しかし、一定の要件のもと税理士に認められている社労士業務があります。

法律上は「税理士が行う税務代理や税務書類の作成、税務相談に付随する業務」であれば行ってよいという漠然とした感じになっていて、これを受けて日本税理士連合会と全国社会保険労務士連合会が締結した確認書に基づき職域が定められています。

税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書
日本税理士会連合会及び全国社会保険労務士会連合会は、社会保険労務士法第27条ただし書及び同法施行令第2条第2号に基づく付随業務の範囲に関す
る協議において、下記のとおり意見の一致をみたのでここに確認する。

1 税理士又は税理士法人が社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を行うことができるのは、税理士法第2条第1項に規定する業務に付随して行う場合であること。

2 (1)上記1にいう税理士又は税理士法人が付随業務として行うことができる社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務は、「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内のものであること。
(2)社会保険労務士法第2条第1項第1号の2の業務(提出代行)及び同項第1号の3の業務(事務代理)は、付随業務ではないこと。

3 付随業務に関して疑義が生じた場合は、その都度、全国社会保険労務士会連合会と日本税理士会連合会との間で協議の上、解決を図ることとする。

なお、年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反すること。

「提出代行」が明確に税理士の業務から除かれているため、税理士が労基署やハローワーク、年金事務所などに届出書を会社の代わりに提出するということはできないということになります。税理士が認められるのは、租税債務の確定に必要な範囲での書類作成までということになります。

「租税債務の確定に必要」とは簡単に言えば税金の金額を確定させるために必要な業務ということになります。ケースバイケースになりますが、例えば源泉所得税の納税額を確定させるために役員や従業員の社会保険加入について判断して書類を作成するといったことでしょうか?

「租税」なので税金に限られます。社会保険料は税金ではないので、社会保険料や労働保険料の確定に必要な事務は上記確認書で認められた業務の範囲には入っていません。つまり社員の入退社手続きや労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届などは税理士が行うことはできないということになります。

また、税理士が労働法関係の書類を役所に提出することは一切NGということが明記されています。

こうしてみてくると、結論から言えば、税理士ができる手続き関係での社会保険労務士業務はほぼないということになります。

ちなみに、最後に付け足したかのように年末調整は社会保険労務士が行うことは違法であるということが明記されています。これは社会保険労務士が給与計算に付随して行っていた年末調整業務については所得税の確定作業(個人事業主の確定申告に相当する作業)であるため、一切社会保険労務士が行うことを禁止したものであり、唐突に滑り込ませた感じがあるところに日本税理士連合会の強い意志を感じますね。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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