
起業して会社を設立したり個人事業主になる場合は、現在勤めている会社と同じ業種で独立するケースも多々あります。例えば、デザイナー事務所で働いていた人がデザイナーとして独立するようなケースです。むしろ、会社員として培ったスキルを活かして独立するということは自然なことです。
再就職であれば同業種への転職というのはよくある話で、そこまで問題になることはありません。しかし、独立となるといろいろと過敏になるケースも多いです。もしかしたら自社のクライアントをとられるかもしれませんし、会社からすれば当然のことかもしれません。
しかし、一方で憲法で「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定められているように、職業の選択は個人に認められた権利であることを考えると、過度な規制は問題です。かといって全く制限をしてはいけないというわけでもありません。重要なのは、独立する者と勤めていた会社の間の利益・不利益のバランスです。
独立する側にとって、チェックしておくべきポイントは以下の点です。
1)入社時などに会社との間で退職時の競業避止について誓約などをしていたか?
会社としては、働く職業を制限する以上は、車内からの独立といったことも経営上起こりうる一事象として事前に備えておくべきということです。独立する段階になってから後出しじゃんけんのように禁止するのはやりすぎです。
2)1)の制約の中で、制限する業種や地域、期間が明記されているか?
3)2)の制限に合理性があるか?
4)何かしらの保障があるか?
ちなみに、独立するなら退職金を減額するといったことがあれば、それには就業規則に明文化されている必要があります。独立に際して会社側から退職金について何か言及されたら、就業規則を確認してみましょう。
顧客情報の持ち出しなどは厳禁
上記のように転職にしても独立にしても、基本的にどのような仕事するのかはその人の自由です。会社が制限するにしても限界があるということです。
しかし、このことと在職中に得た業務上の情報を持ち出したり、独立にあたって利用したりするのはNGです。当然のことですが、顧客リストや顧客との関係は、その会社の無形の財産です。独立後の仕事を得るために、その情報を積極的に活用してアプローチするということは職業選択の自由とは別次元の話です。顧客情報以外にも、その会社で使っていた各種の管理ファイルやマニュアル、就業規則なども、会社の許可なくして持ち出してはいけません。
退職時に誓約書を書くのであれば、職業選択に係る部分は同意しないとしても、上記のような守秘義務や情報の持ち出しの禁止については同意しておくことで折り合いをつけたほうが良いかもしれません。
ただ、独立するという事実だけを顧客先に伝えて、その情報に基づいて顧客が依頼先を変更するといった意思決定をするのであれば、それは問題ないでしょう。取引先を選択するという顧客の意思決定を制限することはいくら何でもできませんよね。
この記事の執筆者

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V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
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