役員の責任免除の規定については、大きく分けて4つのパターンがあります。
パターン1 総株主の同意による責任の全額免除
パターン2 株主総会の特別決議による責任の一部免除
パターン3 取締役や取締役会の決議による責任の一部免除
パターン4 責任限定契約による責任の一部免除
このうち、パターン1とパターン2については、免除を受けるにあたって株主が関与する必要があります。そのため、役員の責任免除を受けるにあたって株主総会を招集する必要があるなど、費用や手間がかかり、免除を受けられるとしてもその免除が確定するまでに時間がかかり、責任免除を受けられるかどうかといった不透明な状態が継続してしまうといった懸念があります。
そこで、取締役(会)の決議によって責任を軽減できるようにしているのがパターン3です。
取締役や取締役会の決議による責任の一部免除を設定するには?
そもそも株主の同意や株主総会の決議によって認められているということは、責任を免除できるのは本来であれば株主です。役員の責任を役員が無条件に免除できるとなると株主が不利益を被ることになり、そのために株主保護が必要となります。
そのため、取締役や取締役会の決議による責任の一部免除を行うためには、以下の要件を満たしておく必要があります。
要件1
取締役が2名以上いる監査役設置会社であること、または監査等委員会設置会社であること
要件2
定款に取締役や取締役会の決議による責任の一部免除を行うことができる旨が定められていること
要件3
業務の遂行について、善意でかつ重大な過失がないこと
取締役や取締役会の決議によって一部免除できる額
免除できる額については、賠償額から最低責任限度額を引いた額が限度となります。最低責任限度額とは、その名の通りどれだけ責任を免除しても最低限負わなければならない責任の額をいいます。
最低責任限度額
役職 | 最低責任限度額 |
代表取締役又は代表執行役 | 1年間の報酬額×6 |
取締役又は執行役(社外を除く) | 1年間の報酬額×4 |
社外取締役、会計参与、監査役、会計監査人 | 1年間の報酬額×2 |
対象となる「責任」とは取締役等の業務執行において生じる責任を全般的に指しますが、利益相反取引については免除の対象から外されています。つまり、利益相反取引を行った場合には、責任の一部免除が定款に定められていたとしても免除できないということになります。
取締役や取締役会での決議方法
取締役会設置会社においては、責任の一部免除の対象となる取締役は決議の特別利害関係人になるため、決議に参加することができません。
取締役会がない会社では、取締役の過半数の同意によって決議を行います。この場合、同意の方法については特に規定されていませんが、実際に取締役全員が集合して決議するか、書面やメール等で各取締役から意思表示を集めるかといった方法が考えられます。
取締役や取締役会の決議による責任の一部免除は登記が必要
定款に取締役や取締役会の決議による責任の一部免除が規定されている場合は、その旨の登記が必要となります。これは非業務執行取締役等との間の責任限定契約を締結できる旨が定款に定められている場合と同様です。
この記事の執筆者
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V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
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