
取締役と会社は委任関係
取締役が辞任を申し出てきたときに、会社の許可がないと辞任できないということはできるのでしょうか?
そもそも会社と取締役の関係は委任関係にあると定められています。
会社法 第330条
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。 |
役員報酬は所得税上は給与所得になりますが、取締役は法的には雇用されているわけではなく、委任契約で会社の業務を遂行しているのです。
委任に関する規定とは、民法で定められた委任に関する規定を指します。そして、民法では以下のような条文があります。
民法 第651条 1.委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 2.前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。 一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。 二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。 |
辞任は取締役からの委任契約の解除、解任は会社側からの委任契約の解除です。そして「いつでも」解除することができると定められているので、取締役からの委任契約の解除である辞任についても、いつでも可能であるということになります。
委任契約の解除権の行使に制限をかけるには?
会社と取締役の間が委任契約であるといっても、いきなり辞めますと言われれば会社としては業務に支障が出てしまいます。特に中小企業では、役員の業務が多岐にわたることも多く、単にお金の問題では済まないケースも出てきます。
それであれば、取締役からの委任契約の解除権の行使に制限をかけられればよいということになります。契約自由の原則からすれば、委任契約の解除にある程度の制限を設けることも可能でしょう。例えば、取締役が就任する際に「辞任する場合は辞任する日の6か月前までに会社に申し出を行うものとする。」といった内容で委任契約を締結しておくといったことが考えられます。既存の取締役との間でも同じように委任契約を締結するといったことは可能です。もし辞任を会社の許可制にするのであれば、許可を出さない内容を委任契約に明記しておく必要があるでしょう。
ただし、こうした制限も、あまりに長期にわたると本人を拘束しすぎてしまい無効と考えられます。双方合意の上、妥当な期間で委任契約を締結することが重要です。
こうした特約がなければ取締役の辞任はいつでも可能で、あとは民法にある通りの損害賠償、つまりお金で解決することになります。
新たに取締役を選任する場合には、本人の就任承諾があって初めて有効となります。法務局からダウンロードできるものも含めて、よく見る就任承諾書は非常に簡素なものが多いですが、就任承諾をしてもらう際に、必要であればこうした委任契約の解除権も含めてしっかりと合意しておくことが重要です。
取締役の最低人数を定款で規定しておくのも一つの手
取締役は会社法上最低1名となっていますが、定款に規定することで2人以上の人数が必要な旨を定めることができます。この場合で、取締役が辞任したことによって定款上定めた最低人数を割った場合には、辞任した取締役は辞任後も後任が決まるまで取締役の職務を行う必要があります。これを権利義務取締役といいます。このように、辞任に備えて定款に取締役の最低人数を規定しておくことも一つの手です。
この記事の執筆者

-
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
最新の投稿
未分類2023.06.06「清算」と「精算」の違い。似てるけど全く意味は違います
会社法2023.06.04合同会社から株式会社への組織変更をする理由とは?
会社法2023.05.24合同会社に新たに加入する社員は出資を完了するまで社員になれない
会社法2023.05.22合同会社の業務執行社員を退任するには?