一人で出資して一人で代表取締役となっている会社は数多くあります。このような会社では代表取締役イコール会社といっても過言ではなく、代表取締役なくして会社の運営はできません。
このような会社で、もし代表取締役が病気や事故などで意思表示ができなくなった場合はどうなるのでしょうか?
もし代表取締役が意思表示できないということになると経営判断ができません。この場合、実質的にその会社の活動はストップします。多くのケースではこの場合新規取引はストップするとともに、もし親族など利害関係者がいれば、その会社を続けるか解散・清算させるかの選択をすることになります。
いずれの場合にしても、代表取締役かつ株主である人が意思表示できなければ株主総会の決議もできませんし、辞任することもできないため手続きが先に進みません。
このようなケースで取りうる手段の一つが一時役員の選任手続きです。一時役員とは、役員が何かしらの理由で不在もしくは機能しなくなった場合に地方裁判所に申立をすることで臨時的に役員を選任してもらう制度です。しかし、この制度はあくまで一時的なものであり、もし代表取締役の実質的不在がずっと続くようであれば別の方法を考える必要があります。
このようなケースではまずは成年被後見人の申立てを行うことから始めます。成年後見人が意思表示できない代表取締役兼株主に代わって意思表示を行うことで株主総会で新たな代表取締役を選任したり、解散の決議を行ったりします。
いまでは成年被後見人や被保佐人であることは取締役の欠格事由ではなくなりましたので、成年被後見人である代表取締役の存在も認められます。そのうえで、成年後見人が代わって株主としての権利を行使することで手続きを進めることになります。
ここで注意しておくことは、株主としての権利は代理行使できますが、代表取締役としての行為については行為能力の制限によって取り消すことはできないということです。成年被後見人であったとしても、その人が代表取締役として意思決定すれば、その決定を取り消すことはできません。そのため、親族などの利害関係者としては、もしそのようなリスクを回避するのであれば、速やかに成年被後見人または保佐人の選任の申立てを行って、会社を解散清算するなどの対応を取るべきでしょう。もちろん、そのまま経営を継続するために代表取締役に就任することも可能です。
いずれにしても、代表取締役が意思表示できなくなったからといって、すぐに代表取締役として欠格するわけではありません。親族としては、そのままにしておくわけにはいかないでしょうから、速やかに方針を決定して、経営を継続するにしても解散清算するにしても、まずは成年後見や保佐の申立をして株主の権利の代理行使ができる体制を整えるべきです。
この記事の執筆者
-
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
最新の投稿
- 会社法2024年10月29日疑似外国会社とは
- 会社法2024年10月27日合同会社の社員の入退社に伴う定款の書き換え、変更は必要?
- 会社法2024年10月25日持分の払戻しが発生する場合の合同会社の社員の退社の効力発生日
- 会社法2024年10月23日会社設立の際の1株当たりの単価はいくらにすべき?