コラム

会社設立で法務局に実印登録をしなくてもよいケースとは?印鑑届は省略すべき?

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完全オンライン申請で印鑑届は不要にできる

会社設立を行う場合は会社の実印として使用する印鑑を、会社設立の登記申請と同時に法務局に届け出ることになります。

しかし、2021年2月15日以降、法改正によって一定の場合には手続き上は印鑑登録をしなくても会社設立ができるようになります。

その要件とは、登記申請を完全にオンラインで行うこと、つまり法務局に紙での書類提出を行わず、すべてをPDFなどの電子データ形式(司法書士に依頼する場合の委任状を含む)で提出することです。とはいっても単にPDFなどで送信するだけでは簡単に書類を作成できてしまい、だれでも架空の登記申請ができてしまいます。

そこで、オンラインで登記書類を提出する場合には書類作成者(株式会社設立であれば発起人、合同会社設立であれば社員)の電子証明書が必要となります。発起人などの電子証明書を使って発起人決定書など各種の書類に電子署名して、それを登記申請時に添付することで印鑑届を省略することができます。

電子署名とは、データ上で押印するハンコのようなもので、PDFファイルに電子署名することで、その電子署名を持っている人がその書類を作成したということを証明するものです。いまではマイナンバーカードもかなり浸透してきましたが、マイナンバーカードにも電子署名が内蔵されていますので、電子署名もかなり一般的になりました。

会社の登記関係で使用できる電子署名には以下のようなものがあります。

公的個人認証サービス電子証明書による電子署名 マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書
商業登記電子証明書による電子署名 法務局が発行した電子証明書
特定認証業務電子証明書による電子署名 セコムパスポート for G-ID

印鑑届を省略すべきか

上記の通り、すべての書類を紙ではなく電子形式で作成することで法務局に印鑑を届け出ることを省略することができます。しかし、正直なところ、印鑑の届出を省略するために上記のように書類に電子署名を行って、オンラインで書類を提出してといったプロセスを踏むことはあまりオススメできません。

そもそも印鑑を届け出たくないから完全オンラインで会社設立の登記を行うといったことは、よほどの逆張り思考でなければ動機としてはあまり考えられません。ということは完全オンラインで会社設立登記を行った方が便利そうといったイメージから、完全オンラインを選択することになるかと思います。しかし、実際には各書類に電子署名を行ったり、それをオンラインで送信したりといったことは非常に手間がかかります。今では会社のハンコは数千円程度で購入できます。このハンコ購入代の数千円と完全オンライン申請にチャレンジする労力を天秤にかけたとき、間違いなく数千円でハンコを購入して紙で申請したほうがコストパフォーマンスはよいです。

印鑑届出をしなくてもよいというと響きはいいですが、実際にやってみると非常に手間です。特に会社設立のように特殊なイベントについて、

また、印鑑届をしないということは、印鑑証明書も出せないということになります。実際の現場において会社の印鑑証明書が求められることはそれほどないかもしれませんが、金融機関からお金を借りたり、補助金や助成金への応募、不動産取引などさまざまな場面で印鑑証明書の提出を求められることがあります。いずれに必要になるかもしれないのでとりあえず法務局に印鑑を登録しておくというのであれば、結局完全オンライン申請の売りの一つである印鑑登録不要といったことのメリットはなくなります。

結局、コストパフォーマンスの観点や、設立後の印鑑証明書の必要性の観点からは、印鑑登録をしなくてよいという点で完全オンライン申請を選択することに合理性はありません。

どのように会社設立するにしても、従来通りの紙での申請をオススメします。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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