新株の有利発行
第三者割当により増資を行う場合に、しばしば話題になるのが有利発行の話です。有利発行については、会社法上では、以下のように定められています。(増資なので、株主総会の決議は特別決議になります。)
会社法第199条 (中略)3.第1項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。 |
この「特に有利な金額」というのは具体的に金額の基準が設けられているわけではありませんが、例えば1回目の募集で1株5万円だったのに、2回目の募集では業績が悪化していないのに、1株3万円で特定の第三者に割り当てたというケースです。この場合は、なぜ3万円で募集する必要があるのかということを株主総会にて説明する必要があります。
もう一つ、有利発行を行う際に検討しておく必要があるのが、発行の目的です。
会社法 第210条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第199条第1項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。
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このうち、有利発行は「著しく不公正な方法」に該当します。株主総会の特別決議を経たとしても、その有利発行の目的が不公正(例えば、経営陣の支配権維持のために、経営陣に対して低い価額での第三者割当を行うようなケース)は、新株差し止めの対象となるということです。
なお、有利発行とは、新株発行時点での「公正な価額」に基づいているかどうかで考えます。業績が悪化しているなどのケースでは、前回の募集よりも単価を引き下げても、それが前回の新株発行(または自己株式の処分)と同じように発行単価が計算されている以上、不公正な方法とはなりません。
結局、有利発行の問題は、既存株主にとって不利益になるから設けられている会社法上の規定です。例えば、一人社長のように株主兼経営者という場合で、有利発行をしたとしても特に問題が生じるわけではありません。(この場合、取締役と募集株式の引受人が通謀して有利発行したということで差額の払い込み義務が生じますが、結局社長一人の会社であれば、それも免責できます。)
有利発行と増資の登記
登記の際には、それが有利発行にあたるのかということは法務局では判断できません。そのため、株主総会議事録に有利発行についての理由説明の記載がなくても登記自体はできます。
ただし、有利発行することについて株主総会で説明義務がある以上、議事録には残しておくべきでしょう。
この記事の執筆者
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V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
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