海外の大企業が日本法人を設立する際、しばしば合同会社の形態が選択されます。例えば、AmazonやGoogle、Apple 、Meta、Netflixなどはすべて日本法人は合同会社です。
誰もが知る大企業なのに日本法人はスモールなイメージがある合同会社であるといったことに対して違和感を感じる人もいるかもしれません。そのため、そうした大企業がなぜ合同会社の形態で日本法人を設立しているのかということを考えてみます。
この問いについては、一つの答えはありませんが、いくつか考えられる理由は以下の通りです。
1)内部統制が簡素であるため
株式会社では、取締役会や監査役、株主総会などのガバナンスに関する制度が必要です。しかし、合同会社ではそのような機関を設置する必要はありません。これにより、会社の管理運営にかかるコストや手間が大幅に軽減されます。特に、大企業が複数の国で事業を展開する場合、それぞれの国の法人形態に伴うガバナンス構造を複雑にすることは、管理コストが増加し非常に手間となります。合同会社であれば、組織構造がシンプルであるため、そうした手間をかけずに会社を設立することができます。
2)法人そのものが代表社員になることができるため
これは海外の企業に限ったことではありませんが、特に100%子会社を設立する場合は、他に社員がいませんし、社員の入退社もあり得ません。そのため、合同会社特有の社員の入退社に伴う手間のかかる手続きが必要ありません。また合同会社であれば会社自体が代表社員になることができますので、海外の本社そのものが出資して代表社員として意思決定することができます。従業貝個人は代表者としてではなく、職務執行者として合同会社を運営させることになりますから,会社として望ましい場合もあるでしょう。
3)意思決定が迅速に行えるため
合同会社は、出資した社員が経営にも従事する「所有と経営の一致」が特徴であり、取締役会を設置する必要がありません。このため、意思決定が迅速に行え、経営に対する柔軟性が高いです。特に、海外の大企業が日本市場に参入する際に、現地の状況に迅速に対応する必要がある場合、会社法が求める取締役会や株主総会の開催プロセスを気にすることなく意思決定できる合同会社は非常に都合がよいといえます。株式会社のように株主総会や取締役会を通じた形式的なプロセスを経るよりも、合同会社のように素早く意思決定を行える経営形態の方が迅速な意思決定の面で有利です。
4)ブランドイメージを気にする必要がないため
合同会社は、日本国内においては中小企業が主に採用する法人形態であり、株式会社に比べて小規模で知名度が低いという印象を持たれることがあります。海外の巨大企業にとっては、すでにグローバルに認知されているため、日本で合同会社を選択したからと言ってブランドイメージが低下するということはないでしょうし、顧客や取引先に対する信頼度が低下するリスクはほぼないといってもよいでしょう。
一言でいえば、株式会社に求められるようなガバナンスや意思決定プロセスが合同会社では求められず柔軟に意思決定ができるということが、名だたる大企業が合同会社を選択する理由と考えられます。
日本で会社設立する人で合同会社を選択する人は、その設立コストの低さや設立までの期間の短さを重視する傾向にありますが、大企業の子会社については別の側面、動機から合同会社を選択しているということもあるということです。
この記事の執筆者
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V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
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