会社設立の手続きでは、特に株式会社については会社法に定められた手順に沿って会社設立準備を進めていく必要があります。公証人による定款認証など必要な手続きがありますが、手続きの内容もさることながら、気を付けておきたいのが手続きや設立プロセスの順番です。
特に気を付けておきたいポイントは以下の通りです。
1)出資金の払い込みと定款作成・認証の順番
定款には「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」を必ず記載しなければいけません。そして、この定款の記載内容をベースに、各発起人が割り当てを受ける設立時発行株式数を定款や発起人全員の同意によって決めることになります。
そのため、少なくても出資金を払い込むには定款作成日(そのあと発起人全員の同意があった場合には、その日)以後である必要があります。そのため、これらの日付よりも前に行われた出資金の払い込みは、いくら当事者が出資金の払い込みだと思っていても、登記審査の上では単に口座にお金が入金されただけだと扱われます。
よく、「出資の履行は公証人による定款認証後」という記述も見かけますが、そのようなことは会社法には一言も書いてありません。書いてあるのは以下の条文だけです。
会社法(出資の履行)
第34条 発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない。
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「設立時発行株式の引受け」は、定款や発起人全員の同意をベースに行いますが、定款については公証人の認証前のものでも定款が発起人の総意で作成される以上、問題ありません。おそらく、この理屈は「株式会社の定款は公証人の認証後に有効になる」という会社法の定めがあることから、定款内に書いてある引き受け株式数も定款認証後でないと有効にならないということからきていると思われます。しかし、認証前の定款であっても発起人間では全員の同意のもと作成された書類であり、有効であると考えられることから、上記のような取り扱いが認められています。
ただし書き以降は、現物出資があった場合です。不動産登記などの手続きは履歴事項全部証明書が必要なので、発起人全員の同意の有無にかかわらず、いずれにしても株式会社の登記完了後にせざるを得ないです。
2)設立時役員の選任と出資の履行の順番
この点については、会社法で以下のように定められています。
会社法(設立時役員等の選任)
第38条 発起人は、出資の履行が完了した後、遅滞なく、設立時取締役(株式会社の設立に際して取締役となる者をいう。以下同じ。)を選任しなければならない。
(中略)
4定款で設立時取締役(中略)、設立時会計参与、設立時監査役又は設立時会計監査人として定められた者は、出資の履行が完了した時に、それぞれ設立時取締役、設立時会計参与、設立時監査役又は設立時会計監査人に選任されたものとみなす。
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このように「出資の履行」後に設立時役員の選任を行うということになっていますので、出資履行前に発起人間で役員を決めていたとしても、発起人の過半数の一致で設立時役員を選任する場合は、改めて出資の履行後に同意を行わなければいけません。
ただし、定款で直接設立時役員を定めている場合は、別途発起人の過半数の一致を得ずに、出資履行完了時に役員を選任したものとみなされます。
ちなみに、設立時役員の選任も定款認証前に行っていても問題ありません。
登記申請後に日付の前後が判明した場合
登記申請時は、いつ定款が作成されたか、いつ発起人全員の同意があったかということは、それぞれの書類に記載された作成日で判断されます。(本当に書類に記載された日付でそれぞれのプロセスが行われたのかという実態の調査を登記官が行うのは不可能です。)
もし、上記の日付が前後している書類を提出して会社設立の登記申請をしても、即却下ということにはなりません。その場合は、書類の差し替えなどで対応できる場合もあります。
ただし、1)の出資金の履行については、定款認証によって定款作成日も確定した日付として記録されるので、定款作成日より前に出資を行ってしまっていたら取り返しがつかないかもしれません。
この記事の執筆者
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V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
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