コラム

退任する代表者からの委任状で退任の登記はできる?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

現在の代表取締役(または代表社員)が退任することになり、後任の代表者が選任されたケースを想定します。この場合、退任する代表者が作成した委任状で登記申請ができるかどうかということを考えてみます。

結論からいえば、このケースでは退任する代表者からの委任状では登記はできません。

そもそも登記申請については、以下のように定められています。

商業登記法 (当事者申請主義)

第14条 登記は、法令に別段の定めがある場合を除くほか、当事者の申請又は官庁の嘱託がなければ、することができない。

この場合の「当事者」というのは代表者個人ではなく会社です。会社からの登記申請(または官庁からの嘱託)がなければ登記することができないということになっています。

登記申請は会社設立などの一部を除いて事後的なものなので、代表者の退任についても、退任後その旨を登記するには会社からの登記申請が必要です。そして、その際に登記申請するのは、その登記申請時における代表者です。退任した代表者は、登記申請時点ではすでに登記申請する権限を失っています。そのため、登記申請の申請者になることもできませんし、司法書士に登記申請を委任する権限もありません。

例えば相続登記で、被相続人が生前に自らの相続登記についての登記申請を委任することができないのと似ているかもしれません。

同様のケースは、共同代表の会社で、代表者のうち一方が退任するケースにも当てはまります。この場合も、退任した代表者は登記申請する権限がないので、その登記申請を司法書士に依頼する権限もありません。

上記のようなことから、例えば退任したい代表者が辞任届を提出して、そのまま自らの退任の登記を申請するということはできないということになります。辞任届を提出して辞任が有効になったとして、その後の登記申請については後任の代表者に任せるということになります。

もし辞任後にその旨の登記が行われていない場合には、会社に対して登記申請を行うように請求し、それでも登記申請が行われないようなケースでは裁判所への訴えなども検討することになります。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

関連記事

新着コラム

  1. 自ら記帳を行っている会社や個人事業主も数多くいる中で、さまざまな帳簿を見ることに...
  2. 海外の大企業が日本法人を設立する際、しばしば合同会社の形態が選択されます。
  3. 海外で登記された会社が日本で継続的にビジネスを行うには、日本で外国会社の登記が必要となります。
  4. 外国会社の登記に特有の登記事項海外で登記された会社が日本で継続してビジネスを行うには、日本で...
  5. 合同会社で官報公告を行う場合の公告や催告書には決算書の特定が不要合同会社で資本金を減少する場...
ダウンロードはこちら