自己株式の取得
株式会社自体が、株主から株式を取得することを自己株式の取得といいます。自己株式の取得には、取得条項付株式の取得や、譲渡制限株式の譲渡不承認による取得など会社法上の規定による取得もありますが、中小企業において最も多いのは、株主との合意による取得です。
例えば、一緒に経営してきた者が退職するために持っていた株式を買い取るケースなどが考えられます。こうした場合は、個人で買い取る場合と会社が買い取る場合がありますが、金額的に個人で買い取ることが難しかったり、他の株主との関係から会社が買い取ったほうがよかったりということで、会社が自己株式の取得を行うことがあります。また、もともと一定の条件が発生すれば会社が株式を買い取るといった株主間契約を締結している場合もありますので、その規定によって会社による自己株式の取得を行うということもあります。
なお、自己株式の取得を行っても、会社が発行している株数自体が減少するわけではありませんので、会社の登記の変更は必要ありません。もし取得した自己株式の消却を行った場合には、その分発行済み株式総数が変わりますので、変更の登記が必要となります。
自己株式の財源規制
自己株式の取得を行う場合は、分配可能額の範囲で行うことが必要となります。自己株式の取得は会社財産を株主に交付することになりますので、株主への配当と実態は同じです。そのため、分配可能額による制限が設けられているのです。
株主との合意により自己株式を買い取る場合のポイント
株主が複数名いる場合に、特定の株主から自己株式を買い取る場合には、株主総会の特別決議が必要です。この場合、株主全員に平等な売却機会を与えるために、株主全員に対して、自己を株主に加えることを議案にするように請求することができます(売主追加請求権)。Aさんから株式を買い取ろうとしたときに、別の株主であるBさんも同額で買い取ってほしければ、Bさんからその旨も株主総会の議案に入れるように請求できるということです。ちなみに、自己株式を買い取る場合の株主総会の特別決議において、買い取ってもらう株主は議決権を行使することができません。
ただし、特に中小企業では、特定の株主からのみ買い取りを行いたいというケースもあります。その際に、他の株主からも買い取りを行うことが生じると当初の自己株式の買い取り計画も狂ってきてしまいます。そこで、定款に定めることで、他の株主に売主追加請求権を与えないということも可能です。
第〇条(自己株式の取得)
当会社は株主総会の決議により特定の株主からその有する株式の全部又は一部を取得することができる。 |
ただし、この規定は株主の投資回収の機会を一つ奪うことになりますので、もしこの定めを設ける場合や変更する場合には、株主全員の同意が必要となります。削除するなら、単なる定款変更なので、特別決議で可能です。
また自己株式を買い取る際の買い取り代金の設定も重要です。特に、買い取り代金次第で株主にムダな税金を払わせてしまうことがありますので、注意する必要があります。
この記事の執筆者
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V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。
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