コラム

海外在住の取締役が役員報酬を受け取った場合の源泉徴収

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海外在住の代表取締役や取締役の課税関係

今では国外に在住している方が日本で会社を設立して、国外在住のまま代表取締役であることも珍しくなくなりました。弊社でも国外在住の方の会社設立から税務顧問まで幅広くサポートしています。

そこで話題になるのが役員報酬の税務的な取り扱いです。日本在住の代表取締役であれば役員報酬を支払えば日本で所得税が課税されるというのは特に悩むこともありませんが、海外在住の代表取締役に対して支払う役員報酬についてはどのような扱いになるのかということは迷うポイントです。

所得税法上の非居住者に対しては国内源泉所得のみ課税する旨が定められています。そして、非居住者に対して役員報酬や給与を支払った場合には、所得税法上以下のように課税が行われることが定められています。

所得税法
(国内源泉所得)
第161条 この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。

(中略)

12 次に掲げる給与、報酬又は年金
イ 俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの

つまり、非居住者に対する給与で日本国内で課税されるのは、

1)国内において行う勤務分
2)日本国内の法人の役員として国外で行う勤務分
の2点となります。このうち、2)については、「役員として」となっていますので、日本法人の役員が国外の法人で従業員として働く場合は該当せずに国内源泉所得に当たらないということになります。しかし、非居住者が国外在住のまま日本で会社を設立して代表取締役として役員報酬を受け取る場合には、従業員として国外で働いている場合には該当しません。

つまり、結論としては代表取締役である以上、国外在住でも日本国内で会社を設立して役員報酬を受け取れば日本で所得税が課税されるということになります。

海外在住の役員に対して支払う役員報酬については、一律20.42%の所得税を源泉徴収しなければいけません。また、国内で受け取る役員報酬と違って、海外在住の役員については源泉分離課税方式、つまり一律20.42%で所得税を源泉徴収して課税が完了し、年末調整や確定申告は不要です。

また、住民税については日本国内に住所を有していない以上課税できませんので、結果的には海外在住の代表取締役については、所得税と社会保険料(健康保険料)だけが天引きされるということになります。(海外在住の役員でも、社会保険料への加入は必要となります。)

租税条約との関係

それでは、例えばアメリカ在住の人が日本で会社を設立して役員報酬を受け取った場合、日本で源泉分離課税として20.42%を徴収されたのち、アメリカでも所得税を課税される、いわば二重課税的になるのでしょうか?こうした国際的な課税関係については租税条約を確認する必要があります。日本とアメリカの間の租税条約では以下のように規定されています。

日・米租税条約 
(役員報酬)
第15条 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

今回の例では、アメリカ国内在住の役員が日本国内の法人から役員報酬を受け取った場合には、日本にて課税できるということになります。つまり、日本で源泉分離課税20.42%を課税して、アメリカでは課税されないということが定められています。こうして租税条約によって二重課税の防止が図られています。

アメリカ以外にも、同様の役員報酬に関する租税条約はオーストラリア、イギリスその他さまざまな主要国と同内容にて締結されています。

このように、国際間課税は複雑な事案も多いです。規制緩和によって海外在住の人が日本国内で会社設立すること自体は以前に比べてハードルが低くなりました。しかし、その後の税務については会社設立以上に複雑であり、設立後の税務については国際課税に強い税理士に依頼することをオススメします。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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