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取締役の役員報酬の総枠決定方式

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取締役の役員報酬の総枠決定方式

会社設立時の役員報酬は、会社の利益や社会保険料などに絡む重要な決め事です。そんな役員報酬は金額には目が行きがちですが、会社によっては決め方にも注意しておいたほうが良いことがあります。

役員報酬の決め方として最も会社にとって運用しやすいのが総額枠決定方式です。これは、定款で役員報酬の上限だけを定めて、具体的な個別の金額については役員が決定するという方式です。

なぜ運用しやすいかといえば、定款で上限を決めておけば、その上限の変更がない限りは、個別の役員報酬については取締役会(取締役会がなければ取締役の過半数の決定)で毎期の報酬を決められるので、定時株主総会の議案に役員報酬のことを盛り込む必要がなくなります。

この総額枠方式は、定款上以下のように記載します。

 

(取締役の報酬等)

第〇条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として当会社から受ける財産上の利益の総額は年額〇億円以内とし、個々の具体的な金額は取締役の決定により定める。

この例では年額で決めていますが、月額で決めることも可能です。いずれにしても、個別の金額を決めなくても、総額を決めておくだけでも役員報酬のお手盛りを回避することができるためです。ただし、定款で上限を定めずに、金額の決定を取締役(会)に一任することはできません。

総額枠方式のときの役員報酬の決定機関

総額枠方式の際の役員報酬の決定機関は取締役会、取締役会がなければ取締役の過半数の決定で行います。

細かい話ですが、取締役自身の役員報酬を決める決議なので、その取締役は、いわゆる特別利害関係人となり決議に参加できないのではという疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、特定の取締役ではなく、取締役全体についての決議であり、報酬の決定される取締役が参加したとしても決議が不公正になるというわけでもないので、特別利害関係人には該当しないということになります。

また、取締役(会)は、報酬の決定について代表取締役に再委任することも可能です。この場合は、代表取締役の一存ですべての取締役の役員報酬を定めることになります。この委任は、毎期行う必要はなく、一度委任すれば、毎期の役員報酬の決定について有効になります。これは取締役の構成が変動したとしても同じ話です。

監査役の役員報酬の総枠決定方式

第387条
  1. 監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
  2. 監査役が二人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。

監査役については、上記の条文で役員報酬の決定方法が定められています。見ての通りで、総額枠方式の場合は監査役の協議で定めるということになっています。監査役の報酬を取締役が定めることになれば、監査役の独立性が損なわれてしまうからです。

この趣旨からして、監査役がさらに取締役や代表取締役に報酬決定を再委任することもできないということになります。

この記事の執筆者

渋田貴正
渋田貴正
V-Spiritsグループ 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士
税務顧問・社労士顧問のほか、会社設立登記や会社変更の登記などの実務を幅広くを担当。その他各種サイトや書籍の執筆活動も展開中。

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